この記事は、親の預金の出し入れや、施設・病院への支払いを誰がどう続けるかで迷っている家族に向けたものです。先に結論を書きます。使える制度は、本人が契約の中身をどこまで自分で分かるかで変わります。社会福祉協議会の日常生活自立支援事業は、判断能力が不十分でも、この事業の契約の中身は分かる人が対象の制度です。任意後見は、元気なうちに将来の任せ先を決めておく制度。判断能力が不十分になり、預金の解約や契約が本人だけでは進まない人は、家庭裁判所に申し立てる法定後見の対象になりえます。どれに当たるかは、地域包括支援センターや社会福祉協議会などの窓口で確かめてください。 数字は、当サイトが 188 日分の家族の介護相談を数えたものと、法務省・裁判所・厚生労働省の案内。2026 年 9 月時点の内容で、出典は記事の末尾に置きました。
お金の管理の相談 66 件。いちばん多いのは費用のこと
当サイトの集計で、お金の管理と成年後見の相談は 66 件でした。多い順に「費用やお金のこと」「手続きや制度の使い方」「家族やきょうだいとの分担」です。
制度の使い方を尋ねる相談よりも、費用やお金の心配のほうが多く出ています。払えるか。どう手続きするか。誰が引き受けるか。制度を選ぶ前に、この 3 つを家族で書き出しておくと、地域包括支援センターや社会福祉協議会で聞くことがはっきりします。この話題の並びはお金の管理と成年後見の話題に置きました。
家族が先に知っておく 3 つの制度
制度は 3 つあります。法務省の Q&A は、成年後見制度を、判断能力の不十分な人の財産の管理や、介護サービス・施設に入るときの契約などを支える仕組みとしています。大きく分けて法定後見と任意後見の 2 つ。これに、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を加えた 3 つを並べます。
| 日常生活自立支援事業 | 任意後見 | 法定後見 | |
|---|---|---|---|
| 本人の状態 | 判断能力が不十分だが、この事業の契約の中身は判断できる | 契約を結ぶときに、十分な判断能力がある | 判断能力が不十分になった後 |
| 誰が支えるか | 社会福祉協議会(本人との契約で) | 本人が自分で選んだ任意後見人 | 家庭裁判所が選ぶ成年後見人・保佐人・補助人 |
| 始め方 | 市町村の社会福祉協議会に相談し、契約する | 公証人が作る公正証書で契約。判断能力が落ちたら、家庭裁判所に監督人を選んでもらう | 本人の住所地の家庭裁判所に申し立てる |
| 手伝える範囲 | 福祉サービスの利用の手伝い、預金の払い戻しなど日々のお金の管理、定期的な訪問 | 契約で決めた範囲の代理。本人がした契約は取り消せない | 類型に応じた代理・同意・取消し |
| 費用の目安 | 実施主体が決める。訪問 1 回あたり平均 1,200 円 | 公正証書を作る費用など。公証役場で確かめる | 申立てで収入印紙 800 円と 2,600 円、切手、鑑定料 |
日常生活自立支援事業は、厚生労働省の案内では、都道府県と指定都市の社会福祉協議会が行い、窓口は市町村の社会福祉協議会です。契約前の相談と、生活保護を受けている世帯の利用料は無料。 任意後見は、今の制度では、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときから効力が出ます。監督人は全件で選ばれます。
法定後見は 3 類型。申立ての収入印紙は 800 円と 2,600 円(後見開始の場合)
法定後見は、本人の判断能力の程度で 3 つに分かれます。どれに当たるかは、家庭裁判所が決めます。
| 類型 | 対象になる人 |
|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の人 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な人 |
| 補助 | 判断能力が不十分な人 |
本人の同意が要るのは、補助を始めるときと、補助人に同意権・代理権を与えるとき、保佐人に代理権を与えるときです。 どの類型でも、日用品の買い物など日常生活に関することは、取り消せる行為に入りません。後見人などが本人の住む家を売るときは、家庭裁判所の許可が別に要ります。 どの類型に当たるかは、医師の診断書や鑑定をもとに家庭裁判所が決めます。家族が決めるものではありません。
裁判所の案内で、後見開始の申立てにかかるのは、収入印紙 800 円分、登記の手数料として収入印紙 2,600 円分、連絡用の郵便切手です。切手の額は裁判所ごとに違います。医師の鑑定をするときは鑑定料がかかり、厚生労働省の案内では、ほとんどは 10 万円以下。 保佐で代理権を求めるときや補助では、その申立てごとに 800 円が加わります。 添えて出す書類には、戸籍謄本・診断書のほか、介護保険の認定書の写し、預貯金通帳の写し、年金額決定通知書、施設の利用料の資料などが並びます。ふだんの介護で手元にある書類の写しが多い。
費用が出せないときの道もあります。法務省の Q&A は、資力の乏しい人が、申立てを弁護士などに頼むときの費用を、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助で立て替えてもらえることがあることと、経費を助成している市町村があることを書いています。
申立てから審判まで 1〜2 か月。始まると途中でやめられない
時間はかかります。裁判所の案内では、申立てから審判まではおおむね 1〜2 か月。鑑定をするときは、その分さらにかかります。法務省の Q&A は、多くは 4 か月以内としています。
家族が先に知っておきたいのは、始まった後のことです。裁判所の案内は、次のように書いています。
- 申立書を出した後は、家庭裁判所の許可がなければ取り下げられない
- 預貯金の解約や遺産分割など、申立てのきっかけになった用事が済んだ後も、本人の判断能力が戻るか、亡くなるまで続く
- 家族の意思や本人の希望では、やめられない
- 後見人などの報酬は家庭裁判所が決め、本人の財産から払う
後見人の仕事は、財産の管理と、介護や医療の契約・支払いです。法務省の Q&A は、食事の世話や実際の介護は、ふつうは後見人の仕事ではないとしています。日々の世話や介護は後見人の仕事ではないので、別に考える必要があります。
申し立てる前に家族で確かめる問い 5 項目
紙に書いておきます。5 つは、上の相談で多かったことと、裁判所の案内が注意していることから選びました。全部に答えが出ていなくてかまいません。書き出したものを、窓口に持っていけば足ります。
1. 本人は、契約の中身を自分で分かるか
ここで使える制度が分かれます。日常生活自立支援事業は、この事業の契約の中身を分かる人が対象。十分に分かるうちなら、任意後見の契約も結べます。分かるのが難しい人は、法定後見の対象になりえます。どれに当たるかは、下の窓口で確かめてください。 見極めるのは家族ではありません。日常生活自立支援事業では社会福祉協議会が、法定後見では医師の診断や鑑定をもとに家庭裁判所が判断します。家族は「最近、通帳や暗証番号が分からなくなった」「同じ物を何度も買う」のような様子を、日付つきで書いておきます。
2. 何のために使うのか
預金の解約、施設の契約、家の売却、相続の話し合い。用事を 1 つずつ書き出します。 法定後見は、その用事が済んだ後も続きます。ここは家族全員で分かっておく。
3. 誰が引き受けるか
相談で 3 番目に多かったのが、家族やきょうだいとの分担でした。申立書には候補者を書けますが、選ぶのは家庭裁判所です。専門職が選ばれることも、2 人が選ばれることもあります。 法務省の Q&A には、入院費を払うために預貯金の払い戻しが要り、近くに住む長男と二女の 2 人が成年後見人に選ばれた例が載っています。
4. 費用と報酬を、どこから出すか
申立ての費用と鑑定料、それに後見が始まった後の報酬があります。報酬の出どころは、本人の財産です。 いちばん多かった相談は、費用やお金のことでした。年金と預貯金で、施設や介護の費用と一緒に払っていけるかを書き出しておくと、窓口で具体的に聞けます。
5. 先にどこへ聞くか
厚生労働省の「成年後見はやわかり」は、市区町村に置かれた中核機関や地域包括支援センター、社会福祉協議会などの地域の窓口で、手続き・書類・後見人になる人について、前もって相談できるとしています。 家庭裁判所の手続案内では、手続きの流れと書類を説明してもらえます。任意後見の相談先は公証役場。
答えごとの、先に聞く窓口です。
| いまの状況 | 先に聞く窓口 |
|---|---|
| 本人は契約の中身が分かる。日々の支払いを手伝ってほしい | 市町村の社会福祉協議会(日常生活自立支援事業) |
| 本人が元気なうちに、将来を任せる人を決めておきたい | 公証役場(任意後見の契約)、地域包括支援センター |
| 本人が判断するのが難しく、預金の解約や施設の契約が止まっている | 中核機関・地域包括支援センター・社会福祉協議会で相談し、手続きは家庭裁判所 |
| 申し立てる家族がいない | 市区町村(市町村長が申し立てる仕組みがある) |
| 申立ての費用が出せない | 弁護士などに頼む費用の立替えを受けられることがある(法テラスの民事法律扶助)。経費を助成している市区町村もある |
2026 年 6 月に改正民法が成立・公布。成年後見の見直しは公布から 2 年 6 か月以内に施行
まだ施行前です。法務省のページによると、成年後見の見直しを含む民法などの改正は 2026 年 4 月 3 日に国会に出され、6 月 17 日に成立、6 月 24 日に公布されました。衆議院の審議経過では、衆議院(5 月 26 日)・参議院(6 月 17 日)とも修正なく可決されています。 成年後見の見直しが始まるのは、公布の日から 2 年 6 か月を超えない範囲で、政令が決める日です。
国会に出された法律案の要綱に、変わる内容として書かれているのは、主に次の点です。
- 後見と保佐の審判をなくし、判断能力が不十分な人はすべて補助の対象にする
- 判断能力を欠く状態が続いている人には、「特定補助人」を付けて、本人がした大事な財産の行為を取り消せるようにする
- 必要がなくなったと家庭裁判所が認めたときは、補助の審判を取り消せる
- 補助人は、本人の意向を把握し、尊重する
- 任意後見は、監督の必要がないと明らかなときは、監督人を選ばないこともできる。効力が生じるのは、新しく設ける任意後見開始の審判のときからに変わる
上の「始まると途中でやめられない」は、今の制度の話です。見直しが始まるまでの間に申し立てた人や、すでに使っている人がどう扱われるかは、法律の経過措置で決まります。今申し立てるか、施行を待つかは、当サイトでは言えません。改正の扱いも含めて、家庭裁判所の手続案内と、地域の中核機関で聞いてください。
家での介護・施設の話とつながるところ
お金の管理は、家で続ける道にも、施設を探す道にも出てきます。どちらの道でもです。 家で続けるときの相談先は、担当のケアマネジャーか地域包括支援センター。当サイトの集計で、ケアマネと地域包括支援センターの相談は 211 件ありました。何を聞けばよいかは在宅介護を続けるか迷ったら、ケアマネと地域包括支援センターに聞くことに書きました。 施設に移るときの費用の軽減は、市区町村の窓口で申請します。仕組みは介護施設の費用の仕組みに、施設の種類は特養・老健・有料老人ホーム・サ高住の違いに書きました。